星めぐりの歌

♪ あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
♪♪ アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。

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この歌は宮沢賢治の作詞作曲のものです。皆さんの中にも知っている方が多くいると思います。私は山や海に行き夜に満天の星を見るとこの歌を歌いたくなります。いつぞや、朝日岳の山小屋で中年のおじさん方にこの歌を教え、岩魚の骨酒を飲みながらみんなで歌ったこともあります。また、月山の山小屋でも岩魚のお造りでビールを飲み飲み歌いましたね。

この歌を歌うときは、子どもがスキップしながら星を巡って歩く気持ちで、軽やかに。

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冬になると、空が澄んできて星を見るのに適してきます。

南東の空を見上げると、大きなオリオン座が目に付きます。上に二つ、中に並んで三つ、下に二つ。なんだか砂時計のような形です。狩人オリオンです。真ん中の三つはベルトで、上の二つ肩の、下の二つは膝です。東の肩(わきの下)に赤い1等星があります。ペテルギュウスと名前がついています。

星の明るさで、明るさの順に一等星、二等星、…と区分します。1等星が一番明るく輝き、全天で21あります

さて、そのオリオンの三ツ星を結んだ線を南東のほうに伸ばすと、白くぎらぎら輝いている星があります。“おおいぬ座”のシリウスです。全天で一番明るい星です。

オリオン座の東側に沸く流れる天の川の向こう岸で、一等星と三等星が斜めに並んでいます。これが猟犬メランポスをかたどった“こいぬ座”です。一等星の青い星がプロキオンです。“青い目玉のこいぬ”ですね。

ペテルギュウスとシリウスとプロキオンを結ぶと大きな正三角形ができます。「冬の大三角形」です。慣れるとすぐにわかるようになります。

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北の空を見てみましょう。

歌に出てくる“おおぐま座”は北極星の周りをぐるぐる回っています。北斗七星はおおぐま座の腰とシッポです。

北極星は、“こぐま座”のシッポの先にある星なので、小熊はシッポの先を釘付けにされて、一年中ぐるぐる回っています。

歌の二番は、実際の星座の配置とは違いますね。北極星はこぐまの額の上ではなく、しっぽの先です。

歌は夜空を子どもたちが、北極星を目指してスキップをしていくというのでしょう。

また、銀河鉄道に乗っての全天の星座見学の旅でしょうか。子どもたちのわくわくする気持ちが満ちています。

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今まで書いてきた星は恒星(fixed star)です。恒星とは太陽のように、自分で光を出せる星のことです。天球上で位置を変えることがありません。それで「恒」星と呼ばれています。星座を形づくる星のほとんどは恒星です。

そこで、星座を覚えているといいことがあります。

まず季節の移り変わりが実感できます。忙しい日常で季節など頭になかったときに、空を仰いで見るとオリオンが大きく輝いていれば、「ああ、もうすっかり冬なんだ、…」と感じるわけです。“しし座”が勇壮に上ってくるのを見ると、「春ダナ…」心楽しくなります。

星座を媒介として、季節と心が一致します。人生が豊かになります。

恒星は24時間で空を一周します。これは地動説的な言い方です。実際は地球が24時間で一回転するので、見える星座が動いて見えるわけです。全天は360度ですので、一時間では15度動くことになります。

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その昔、閖上(ゆりあげ)の漁師に、「船に乗ってイデ、時計などイラネ、ホスミロ(星見ろ)」と言われました。若かった私は、「ホンダラ、ホスデデネドキ ドウスンノッシャ、」と聞くと、「ホンドキハ、スオミロ」というご高説でした。スオとは潮のこと。

これほど専門的でなくとも、夕方は東に見えた星座が西よりになったとすれば、国分町で飲みすぎたということになります。

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また、世界的に見ると位置関係が分かります。その地の緯度と経度によりある一定の時刻では星座の位置が違います。これは私には経験がないので外国のミステリー小説の話しです。

米ソの冷戦がすさましかった時、二重スパイがいました。ソ連に寝返ったと言ってかくまわれたスパイはアメリカの報復を恐れているということにして外に出ませんでした。

夜のみ散歩を短時間します。夜の九時きっかりに。スパイは空を見ていました。隠れ家を特定していたのです。

その後の筋は忘れましたが、

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次は惑星の話です。惑星とは自分で光をだせません。太陽のまわりには9個の惑星がまわっていて、内側から水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星という名前がついています。

しかし、冥王星は2006年8月に開かれた国際天文学連合総会で準惑星に分類されることになりました。

さらに付け加えれば、冥王星「Pluto」プルート(プルートー)とはローマ神話に登場する冥府の王です。命名者はイングランドの11歳の女の子ヴァニーシア・バーニーさんです。

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惑星は英語でplanetといいます。語源的には「さまよう者」「放浪者」の意味です。惑星は恒星のように規則正しくは動きません。空の恒星の間をうろうろと動きます。金星や、土星、火星などは見ればすぐわかりますが、その他の星が、その日どこにあるかは天文年鑑で調べなければ分かりません。

平成24年12月12日、朝6時、早起きの私は二階のベランダで洗濯物干しをしていました。

すると、東南東の方角、地上から20度ぐらいのところ、金星と細い月の近くに、ホソボソと白く光っている星を見つけました。今まで見たことがありません。

“瞬いていない、惑星である。すると、水星(mercury)しかない。”私は確信しました。

事務所に出てから、仙台の天文台に電話しました。やはり水星ということでした。私は感激しました。水星は黄道の近くを運行しています。太陽に邪魔されてなかなか見ることができません。観測しにくい星です。あのコペルニクスも死の床で「水星を見ることができなくて残念だ」と言ったそうです。私はこの年になったが、死ぬ前に見ることができてよかったと喜び祝杯を挙げました。旧暦で神無月(10月)29日、新月の前日でした。

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スイセイでも違う彗星(comet)の話し。ハレー彗星は1986年2月に回帰した時はよく見られましたが、2013年の11月頃アイソン彗星が地球に近づきました。私は東の空を見ていましたが、初冬の地表近い空はもやっていて、見ることができませんでした。

今でこそ、彗星のは水(氷)の固まりだなどと簡単言いえますが、昔の人々は恐ろしい思いをしたようです。当時の記録が残っていて、人々の様子が分かるのはハレー彗星です。

それは、1910年(明治43年)のことです。 前年の1909年9月に発見されてからその軌道を調べると、1910年4月20日に近日点を通過した後、5月19日に地球に最接近し20日には彗星の尾の中を地球が通過することがわかったのです。

当時は彗星の正体は小型の天体であることは分かっていましたが成分は不明ですし、尾には毒ガスが含まれているらしいという風説が流れ「この世の終わりになる」のではという社会不安が広がっていきました

学校の校庭で、子どもも大人も息を止める訓練をしたなど、いろいろエピソードはあります。

ためらはず遠天(おんてん)に入(い)れと彗星(すいせい)の白きひかりに酒たてまつる

斎藤茂吉 歌集「赤光」明治43年

 (彦)