葉桜の目黒川

仙台ではソメイヨシノが散ってしまい、しだれ桜が残っている頃の4月中旬、目黒川の桜を見に行きました。

中目黒駅から上流では、左右の川岸から桜の木がアーチ状に川を覆っていますので、咲いていればさぞや奇麗だろうと思っていました。

予想通りというか当然のことながら、花はほとんど残っていませんでした。

それでも新緑がきれいで、心が休まりました。

もう少し前の花が散っている最中でしたら花びらで川面がピンク一色に染まり、目黒川ならぬSAKURA川になっていたのでしょう。

ここで兼好法師が登場

花はさかりに、月はくまなきを見るものかは。雨にむかひて月をこひ、たれこめて春の行くへしらぬも、なほ、あはれに情(なさけ)ふかし。咲きぬべきほどの梢(こずえ)、ちりしをれたる庭などこそ見どころおほけれ。「徒然草 第百三十七段」

桜の花は満開であるのを、月は曇りなく照り渡っているのをばかり、観賞するものだろうか。御簾をたれ、部屋に閉じこもって春の過ぎるのを知らないのも、やはりしんみりとして情緒が深い。今にも咲きそうな頃の梢や、散ってしおれている庭などが、見て趣が深い。(現代語訳)

物の美は必ずしも一般的に言われる所の絶頂の姿にのみあるのではないのでしょう。

むしろ、機微の中に、あるいは滅びゆかんとする中に、しみじみとした、我々の魂を浸す情緒があるのでしょう。


目黒川沿いは、散歩したり写真を撮ったりする人でいっぱいでした。

一休みするのには、川沿いにはワインレストランやカフェなどのおしゃれな店がいっぱいあります。

私はスムージーを飲んで渇きをいやし、葉桜の目黒川の余韻に浸ったのでした。

川を渡って、「郷(さと)さくら美術館」へ向かいました。

ここで友人と合流です。

郷さくら美術館は、現代日本画の専門美術館です。

「一年を通じて満開の桜を日本画で楽しんで頂く」というコンセプトに基づいて、桜がモチーフの屏風作品を含めた大作十数点を常設する展示室を設けております。

大画面の現代日本画による桜の空間を堪能できます。

今回の特別展は「桜花賞」展でした。

80号以上の桜の日本画50点ほど鑑賞できました。

私が心を引き付けられた作品。

写真がないのでうまく説明できませんが

加藤清香さんの「名もなき花」…林の中にひっそりと立っていて細い枝に花を咲かせている。

後藤真由美さんの「動脈」…濃い赤で画面全体が染まっています。深い赤です。


次に代官山の方に歩いていきました。

途中に目切坂という長い坂がありました。

「いざ鎌倉」の時は侍が馬を走らせた道だそうです。

目的地は「旧朝倉家住宅」の見学です。友も私も初めての所です。

旧朝倉家住宅は、渋谷区猿楽町、台地が目黒川の谷に落ち込む南西斜面に、東京府会議長や渋谷区会議長を歴任した朝倉虎治郎によって、1919年(大正8年)に建てられました。

大正期の和風2階建て住宅の趣のある建物と回遊式庭園を見ることができます。

ちょうどガイドツアーが始まったところでしたので、合流し各部屋のことなどを詳しく聞くことができました。

その後また一回りし、ここは書院造り、ここは数寄屋造りなどと言いながら見学しました。

庭園は崖線という地形を取り入れた回遊式庭園です。

ちょうどツツジがきれいでした。百本以上あるというイロハモミジの若葉奇麗でした。

猿楽町から代官山の方に向かいスイーツ探して歩きましたが、お目当ての店は店舗の改装中で買えませんでした。仙台にいる上品な友へ送ろうと思っていましたが果たせず。

澁谷に出て、澁谷ヒカリエに行ったところ、ビックリ。

地下二階は全フロアがスイーツ売り場です。
その後メキシカン料理。


斎藤茂吉の和歌に“さかり”を過ぎた桜を歌ったものがあります。

茂吉は昭和10年に吉野山に旅しました。

詞書には次のようにあります。

 吉野山

四月二十三日、備後石見の旅よりかえるさ大阪に寄りて

高安やす子、鈴江幸太郎二たりとともに吉野山の残花を

賞でつ

もえぎたつ若葉となりて雲のごと散りのこりたる山桜ばな

斎藤茂吉歌集「暁紅」昭和十年

茂吉は散ろうとしている山桜に大きく心が動かされているのでしょう。

詩人の感性の深さを感じます。